啄木忌いくたび職を替へてもや   安住 敦

《たくぼくきいくたびしょくをかえてもや》

 季題は<啄木忌>で春。不遇と貧困のうちに26歳で逝った石川啄木の忌日は、4月13日。一家の生活を支えるために職も居住地も転々と変えた一生であった。

  はたらけど はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり 
                               ぢっと手を見る  啄木

 この句の背景には、こうした啄木の境涯や作品が大きく影を落としている。だからこそ下五の強い詠嘆が、何を意味しているのか読み手に自ずと伝わるのだ。いく度職を変えても、ああ暮らしは楽にならない。深い重い生活者の吐息が聞こえてくる。

 この句、原案は「いくたび職を替へても貧」。師、万太郎の朱筆によって活を入れられたと自註にある。「啄木忌」という季題の働きを信ずることによって、「貧」の一語を呑みこんだ分、一句に余情が生じた。「言い了せて何かある」の訓えをまのあたりにするような添削である。 <和子>



 安住敦は職業を度々変えなければならないそういう星のもとに生まれたのかもしれない。

  秋風やふたたび職を替へんとし
  鳥渡る終生ひとにつかはれむ
  職替へてみても貧しや冬の蠅
  啄木忌子に知らすべき貧ならず

 現在に対する充たされない思いは、啄木がかつてそうであったように次々と職場を変える、という現実となってあらわれた。しかし仕事を変えたからといって、それで心の安定が得られるものではないことは、作者自身よく知っていたはずである。

「啄木忌」は4月13日、その一日のことをさすが、敦の用いた「啄木忌」は、枕ことばのごとく作用して一句の内容を導き出し、それにニュアンスを与える働きをしている。 <克巳>

   昭和23年作。句集『古暦』所収。
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by chi-in | 2008-04-22 00:03 | 春の句
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