季題は<落葉>で冬。武蔵野は関東平野の一部で、埼玉県川越市以南、東京都府中までの地域。「今も武蔵野の面影を残す」という表現がよく使われるが、昔、このあたり一帯は広大な雑木林だった。その自然美を描いた国木田独歩の散文でも知られている。
そういうわけで、我々は「武蔵野」という地名から、果しもなく続く雑木林を思い浮かべる。その上に晴れ渡った初冬の空。そしてとめどもなく降る落葉。乾ききった音をたてて降りつづける落葉は、あくまでも明るい。広大な自然の移り変わりの美しさと、淋しさが満ちている句である。 難しい言葉や言い回しは何ひとつない。きわめて簡単明瞭な、印象鮮やかな句で、子供にもわかる視覚的な作品である。中学生の頃、駅の大きなポスターでこの句を知り、俳句の魅力を教えられたのがきっかけで句作を始めたという先輩がいるが、名句とはそうしたものだろう。 <和子> 上五・中七で武蔵野の真っ青な空を印象付け、下五でその風景に動きを添加している。 それまでの俳句に詠まれてきた落葉のイメージとは明らかに異質な明るさがこの句には横溢している。洋画家がキャンパスいっぱいに青空を描き、そして落葉を描き込んでゆくー。 そのような手法が秋桜子の俳句には感じられる。この句からも、理想的な美を追求しようとする秋桜子の性向がうかがわれよう。”むさしの”というひらがな表記の効果にも注目したい。視覚的韻律とでもいうようなおもしろさが感じ取れるのである。 <克巳> 大正15年作 『葛飾』所収
by chi-in
| 2004-12-15 00:00
| 冬の句
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