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捨焚火寒山拾得来て育て    河野静雲



  《 すてたきびかんざんじっとくきてそだて 》



 季題は〈捨焚火〉で冬。寒山は中国唐代の詩僧、豊干禅師を師とする。仏教の哲理に通じ、文殊菩薩の化身であるといわれた。『寒山詩集』がある。一方、拾得は国清寺にいた僧で、豊干禅師に拾われた孤児ということでこの名がある。その脱俗ぶりは有名で、寒山と併称されることが多い。禅画でしばしば寒山拾得図が描かれているが、この句はその禅画の趣を強くもった作品である。

 静雲は浄土門であるが、若い時に胸を病み、闘病の意味もあって参禅したという。

 白い煙を上げて消えかかっている焚火に、寒山と拾得がやってきて再び燃え上がらせると、何やらおかしそうに笑いながら、しきりに暖をとっているのである。捨焚火の「捨」と拾得の「拾」が対になって用いられているところにちょっとした禅問答風のおもしろさがある。   ( 克巳 )



 森鴎外の短編「寒山拾得」に、二人は豊干の言葉でこのように紹介されている。「国清寺に拾得と申すものがおります。実は普賢でございます。それから寺の西の方に、寒巌という石窟があって、そこに寒山と申すものがおります。実は文殊でございます。」普賢、文殊は共に釈迦の左右の脇士で、仏の教化、済度を助けるとされている。

 拾得が寺の厨で僧どもの食器を洗い、残った飯や菜を竹の筒に入れておくと、寒山がそれをもらいに来る。むさくるしい厨の隅の竈で、痩せて身すぼらしい二人が火にあたっている。豊干に紹介された者が訪ねてくると、二人は「顔を見合わせて腹の底から籠み上げて来るような笑声を出したかと思うと、一しょに立ち上がって、厨を駆け出して逃げた」。これが鴎外描く寒山拾得像である。

 揚句は静雲描く寒山拾得像。世人の捨てた焚火を育て、心満ちた様子の二人が見えてくる。   ( 和子 )



 昭和24年作。句集『閻魔以後』所収。



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by chi-in | 2014-12-17 21:13 | 冬の句
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