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年忘れ老は淋しく笑まひをり     高浜虚子


  《 としわすれろうはさみしくえまいおり 》



 季題は〈年忘れ〉で冬。忘年会の席上、少し酒が入ってくると座もだんだんにぎやかになる。宴会は盛り上がってゆく。はずんだ空気の中で、この句の老人は、酒を飲むでもなく話に加わるでもなく、にこやかな笑顔を作って座っている。

 静かに微笑みをたたえて座っている老の淋しさは誰にも理解できはしない。老年というものの本質をこれほど静かに、さりげなく穿った虚子の深いまなざしに脱帽せざるを得ない。  ( 克巳 )



 虚子が提唱した「花鳥諷詠」とは自然諷詠のことだと、偏狭なのみこみをする向きがあるようだが、この言葉は、人間存在も自然界の一部と包みこんでいた信念であることを忘れてはならない。虚子ほど人間の諸相を詠んだ俳人もまた少ないのである。ほんの一例だが、

  手を出せばすぐに引かれて秋の蝶  虚子
  羽子板を口にあてつゝ人を呼ぶ
  これよりは恋や事業や水温む
  髪洗ふまなくひまなくある身かな
  襟巻の狐の顔は別にあり

 
 いたいけな幼児から娘盛り、社会に出るころ、子育て真っ只中の若い母親、気取った婦人・・・・・。それぞれの人間が虚子の作の中でなんといきいきと生きていることか。     ( 和子 )


 昭和14年作。『自選虚子句集』所収。



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by chi-in | 2013-12-11 20:57 | 冬の句
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