≪まつりぶえふくときおとこよかりける≫
季題は<祭笛>で夏。昭和24年、京都の祇園祭を戦後初めて見た折の作。千年以上もの歴史を持つ絢爛豪華なこの祭を、大戦を経て再び目のあたりにした作者の思いを想像したい。同時の作に、 ゆくもまたかへるも祇園囃子の中 行き堪へて身に沁むばかり藍浴衣 もこの夏の作である。 祇園祭の巡行の折は勿論、辻々に山や鉾が建てられると、その夜から宵山までの数日間、町衆は代わるがわるこの上で祭囃子を奏でる。コンチキチ、コンチキチという鉦の音と、ゆるやかな笛の音が夜更けまで大路にも路地にも流れる。 鉾の上で一心に笛を吹いている男の表情、粋な浴衣姿を「佳かりける」と言いきった点が新しい。しかも女の目から見た男の色気を潔く描写している。古来、女の色気を詠んだ男の句は多いが、女の側からこう詠んだ佳句は、この時代までなかった。<和子> ひたむきな姿勢は男女にかかわらず美しいものである。祇園祭の山鉾の上で、ひたすら笛を吹き続ける男の横顔を、「佳かりける」と言いきったのは、あながち祭の持つ特殊な雰囲気に支配されたばかりではないだろう。女から見た男の魅力には、肉体のもつ力強さ、たくましさばかりではない何ものかが存在する。いわゆる男性的な魅力というもののほかに、確かに男の色気というものがあるようだ。そういう男の魅力を、多佳子は、祭笛を吹く男に見いだしたのである。<克巳> 昭和24年作。『紅絲』所収。
by chi-in
| 2008-07-15 18:11
| 夏の句
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