花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ   杉田久女

 季題は<花衣>で春。<花衣>は古典的には桜襲(さくらがさね)の衣をもいうが、この句の場合は花見に着用する衣装ということである。

 <花疲れ>という季題のもつ倦怠感がこの句には感じられる。着物を脱ぐという女性特有の仕草の中に、甘美なアンニュイを色濃く感じさせるのである。女体そのものを描いているわけではないが、「まつはる紐いろいろ」は女性ならではの着眼で、大人のエロティシズムを醸し出している。

 久女は昭和7年、この句にちなんだ俳誌「花衣」を創刊主宰。わずか5号で終刊になったが、掲句が自他ともに認める作品の証左ともなるだろう。<克巳>



 身に「まつはる」「いろいろ」なもの。それは女性の肉体だけでなく、精神をも規制している種々の価値観かも知れない。女はかくあるべきという時代の観念に、着物を着ていた頃の日本女性は支配されていた。

 自意識の強かった久女は、その時代の多くの女性達よりも早く自我に目覚めていた。それだけに、心身にまつわる様々なものを敏感に感じ取っていたに違いない。そこから自由になりたいために。それは着物を脱ぎ体を開放する時のあのもどかしさ、うとましさに似てはいないだろうか。大正8年作。<和子>
   『杉田久女句集』所収。
[PR]
by chi-in | 2007-03-30 13:10 | 春の句
<< 口曲げしそれがあくびや蝶の昼 ... 流氷や宗谷の門波荒れやまず  ... >>