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蚯蚓鳴く六波羅蜜寺しんのやみ   川端茅舎

季題は<蚯蚓鳴く>で秋。古来、俳諧では現実には鳴かないみみずを鳴かせてきた。<亀鳴く>という季題もそれに類したもの。夏から秋にかけて、むしむしする夜の畑などでジージーとしきりに鳴いているものがある。それを人は蚯蚓が鳴いているのだと信じ込んでてきた。

実際には蚯蚓には発声器官がなく、鳴いているのは本当は<けら>であるということは現在俳人の皆知るところである。しかしそういう知識は知識として、季題としての<蚯蚓鳴く>は依然として存在し続ける。

六波羅蜜寺は京都東山の古刹。いかにも闇夜がふさわしい響きをもった寺である。<蚯蚓鳴く>という季題、『六波羅蜜寺』という固有名詞、そして「しんのやみ」という把握がきわめて有機的に結びついた一句。 <克巳>



六波羅蜜寺の辺りはかつて平家一門の邸宅が建ち並んでいたという。『平家物語』にも『六波羅殿の御一族の君達』と、その一族を呼んでいる。一族滅亡の後は探題が置かれていた場所でもある。

この固有名詞は、その謎めいた音韻もさることながら、こうした歴史を負った地霊をも呼び起こす。平家一門の記憶につながる闇の深さを、日本人であれば感じ取るであろう。そうでなければ、この固有名詞は他の七音の怪奇な地名と置き換え可能になってしまう。といって、あまり詳しい歴史的知識は一句の味わいをかえって損う。或る不気味さ、闇の深さを感じ取ればいいのだ。 <和子>
          『川端茅舎句集』所収
by chi-in | 2005-07-15 00:00 | 夏の句
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