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紫陽花や白よりいでし浅みどり   渡辺水巴

季題は<紫陽花>で夏。薄い緑から白、青、そして紅紫色と複雑にその色を変えてゆくので<七変化>の名がある。この句はその紫陽花のある時期を詠んだものである。

「浅みどり」は、単純に薄い緑色ととるのが普通かもしれないが、萌黄色(青と黄の中間の色)の少し薄い色ともとれる。作者がはたしてどのような色を、眼前の紫陽花に見てとったかは即断できない。七変化のプロセスでどの色もみとめることができるからである。この句は読者が、それぞれの経験にしたがって、もっともふさわしい色をあてるのがよかろう。

私は、「白よりいでし」という点を考えて、薄い水色(浅黄色)がぴったりすると思っている。浅黄色というのは、歌舞伎で「幕を切って落とす」というときの幕の色である。浅黄というと、なんとなく黄色と緑の中間の色と思われがちであるが、むしろ空色に近い。昔の人の色彩感覚は現代人よりはるかに複雑なようである。 <克巳>



『広辞苑』を引いてみると、『浅みどり』には、うすい緑と共に、うすいもえぎの意味もある。萌黄色と表現すると、黄色のイメージが勝ってしまうので、萌葱色と表わしたい。紫陽花の幼ない毬は、葉と同じような緑色から発し、花の形をととのえつつ白くなってゆく。しかしその状態では「白よりいでし浅みどり」とはいわないだろう。むしろ、緑より抜け出してゆく白、であるから。

この句は、その白から、ほんの少し萌葱色に色づきはじめた段階を言いとめているのだ。そのすきっとした色あいの潔さを、この簡潔で平明な句形と音韻が十分に表現している。

あじさい、しろ、いでし、あさみどり、と続くサ行の音は、涼やかで水際立ったものを感じさせよう。こういう句は他に内容があるわけでもない。読み手は音読してみて、この句のすっきりした心地よさを味わえばいいのだ。 <和子>
   昭和20年作 『水巴句集』所収。
by chi-in | 2005-06-15 00:00 | 夏の句
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