しぐるるや駅に西口東口   安住 敦

 季題は<時雨>で冬。「田園調布」と前書があるが、無論どこの駅でも構わない。大きなターミナル駅というのではなく、かといって改札口がたったひとつの小さな駅でもない。西口とか東口とかがある程度の、私鉄沿線の駅。

 折から降り出した時雨に、電車から降り立った人々はコートの衿を立てて足早に歩み去る。あるいは傘を持って迎えに来た人。改札口を出てさよなるを告げる人々。人待ち顔に雨空を見上げてたたずむ人……そんなありふれた駅頭の光景が、西口にも東口にも繰りひろげられている。
 
 自註によれば、待ち合わせをした相手が西口に、作者が東口に出てしまったという、よくあるアクシデントが契機となった句というが、とある町のとある駅の、時雨の夕暮から始まる映画の冒頭シーンのような印象の一句である。人々が出会い、別れる駅頭は、いつでも小さなドラマが始まる舞台となる可能性を秘めている。 <和子>


 西口と東口をもった駅は数えればきりがないが、私の印象的なのは池袋駅で、あそこは西口に東武デパートが、東口に西武デパートがあるという妙なところだ。

 西口も東口も単に方向が違うだけで、あとは似たようなところかというと、これが必ずしもそうではない。「駅に西口東口」となんでもない事実を述べているようにも見えるが、そういう点を考えに入れて読むとまたおもしろい。 <克巳>
   昭和21年作。句集『古暦』所収。
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by chi-in | 2006-11-24 15:16 | 冬の句
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