暁は宵より淋し鉦叩          星野立子



  《 あかつきはよいよりさみしかねたたき 》



 季題は〈鉦叩〉で秋。鉦叩はバッタ目コオロギ科の昆虫で、体長の二倍ほどの触角と、長い二本の尾毛が特徴である。雄は長円形で後翅はなく、雌は無翅で鳴かない。秋、雄が広葉樹下や朽葉の間で「ちんちん」と地味な、響きのない音を立てる。

 宵という時間は、まだ人と人のつながりが濃密なときである。しかし夜中を過ぎて人は皆眠りにつきそれぞれが孤独に還る。その淋しさのきわまりが暁ともいえよう。明日という近未来に対して抱くとりとめのない不安が、作者の淋しさをつのらせる。同じ鉦叩の声が、暁にはこれほどまでに心にしみ入ってくるのである。   ( 克巳 )



 この句が「ホトトギス」に発表された時、虚子は「従来のやうな明るい鏡に写しとつたやうな景色其儘―――其儘といふのは語弊がある。矢張り作者の頭の燃焼を経た景色―――を写生した句ではなくつて、作者の感情が土台になつて、其の作者の感情の動く儘に景色を描くといつたやうな句になつて来た」と評し、その作句傾向の変化を認めている。この時期に立子の句風のひとつが確立されたといえよう。

 その時の心持ちや感覚に実に忠実であり、表現は平明、しかも季題の配合に冴えがみられる。  ( 和子  )



 昭和10年作。『立子句集』所収。


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by chi-in | 2015-10-14 20:16 | 秋の句
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