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雪解川名山けづる響かな    前田普羅


  〈 ゆきげがわめいざんけずるひびきかな 〉


 季題は〈雪解川〉で春。「雪解川」「名山」そして「響き」と、重厚なひびきをもった名詞が連なる、格調の高い一句である。「名山」は名高い山ということで、特定する必要がないので漠然とこのように言い放ったのだ。一冬かけて山国に積もった雪が、解けはじめる春先は、山々にとってまた新しい季節の到来でもある。

 山肌を深々とえぐって流れ落ちる雪解川の水量にははかり知れないエネルギーが秘められている。そのような莫大な質量に対し、決してひけを取らない普羅の作句に対する姿勢というものが感じられる一句である。   ( 克巳 )



 この句はまさに簡素にして雄勁といえよう。「名山」の呼称がいい。読み手はそれぞれの心の中に浮かぶ堂々たる名山を特定すればよい。身をけずって流す雪解の水は、年々その容貌を厳しく、近寄り難いものにするに違いない。この句を見ていると、名山の相は、一日にして成るものではないことに思い至る。

 普羅は「地貌」というものに非常な興味を抱いていて、それは「地球自らの収縮と爆発と、計るべからざる永い時てふ力もて削られ、砕かれ、又沈澱集積されたる姿である」ととらえていた。この句にはそうした眼力が感じられる。   ( 和子 )



 大正4年作。『新訂普羅句集』所収。


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by chi-in | 2014-03-06 20:14 | 春の句
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