鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし       三橋鷹女



  《 しゅうせんはこぐべしあいはうばうべし 》



 季題は〈鞦韆〉で春。蘇東坡の「春夜」の詩に、

 〈春刻一刻値千金 花有清香月有陰 歌管楼台声寂々 鞦韆院落夜沈々〉

とある。古来、中国の宮嬪たちが、春の遊戯をして楽しんだという。日本名は〈ぶらんこ〉。古語では〈ふらここ〉〈ゆさはり〉ともいった。従ってこの季題は、子供達の遊具のぶらんこという認識だけでは十分でない。宮廷の女たちが裳裾を翻して鞦韆を漕ぐ様に、天翔る天女を想い、艶なる情趣を感じていた背景を思うと、より豊かな世界が広がってこよう。時は春。当然そこには恋の雰囲気も漂う。

 この句、齢すでに五十を越えた作者の年齢を考え合わせると、自身への意思表示というよりも、恋の季節の只中にある次の世代への心の呼びかけとして味わいたい。この句を思う時、私はいつも「命短し恋せよ乙女」の歌がきこえてくる。人生は短いのだ。鞦韆は思いきり漕ぐべし。積極的に生きるべし。春は短い。老いはすばやくやってくる。   ( 和子 )



 歌人与謝野晶子はわが肉体を賛美し、ゆく春を惜しんだ。

 〈 春みぢかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ 〉

しかし俳人鷹女は、鞦韆をこぐのにためらうな、愛に優柔不断は禁物であると喝破している。短歌と俳句の本質的な違いがここにあきらかである。   ( 克巳 )


 昭和26年作。『白骨』所収。




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by chi-in | 2013-03-15 20:25 | 春の句
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