プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ    石田波郷


  《 ぷらたなすよもみどりなるなつはきぬ 》


 季題は〈夏〉。街路樹として外灯に浮かびあがったプラタナスの緑は、いかにも都会の持つ洗練されたイメージにふさわしい。水原秋桜子の知遇を得て、この年はじめて上京し、「馬酔木」の編集に携わった青年の句として、これ以上みずみずしい抒情性の句はまたとあるまいと思われる。「プラタナス」と切り出し、「夜もみどりなる」と心のさわだつような眼前の景を提唱し、そして「夏は来ぬ」と断定したいさぎよさは、まさに青春俳句そのもの。

 病中の絶唱ともいうべき作品が多い中で、この句をとりあげたのは、波郷の俳句を形成する秋桜子との関わりを念頭においたからにほかならない。馥郁と匂い、弾むような青春性が波郷俳句の底流として確立していなかったら、後年の病床吟は生まれ得なかったであろう。   ( 克巳 )


「夏は来ぬ」というフレーズで、私達が先ず思い出す歌に、
 
  「卯の花の匂う垣根にほととぎすはやも来啼きてしのび音洩らす夏は来ぬ」

という、最もポピュラーな唱歌がある。日本の夏の古典的情景を歌いこんだ典型といえよう。同じフレーズを使って、俳句という定型に嵌めて、この句の新しいこと、若いこと、都会的であること。この句の魅力はそこにある。街路樹の夜の緑に感応した感性のみずみずしさ故に、半世紀以上隔てた今でもこの句は新しいのだ。

   あえかなる薔薇撰りをれば春の雷  波郷 
   ひととゐて落暉栄あり避暑期去る     
   夜桜やうらわかき月本郷に
        

 匂うような青春性と抒情性は、波郷の初期の作品の大きな特徴である。             ( 和子 )
   
    昭和7年作。『石田波郷句集』所収
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by chi-in | 2009-07-01 10:22 | 夏の句
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